渡邊雄太がもたらしたもの – ワタナビー効果は終わるのか?

A Japanese translation of a thank-you to Yuta Watanabe.

The following is a Japanese translation of an article published here. The author and the translator is  Raptors Info Japan.

フリーエージェントの退団日はいつだろうか?書面上がどうかはさておき、ファンの心理面では他チームとの契約が報じられた時、そして彼がサヨナラと言った時だろう。

8月28日、ブルックリン・ネッツが渡邊雄太との契約を発表した。そして9月18日、渡邊はInstagramで「ありがとうトロント 寂しくなるよ」と綴った。

素晴らしい2年間を振り返るには良いタイミングだろう。

2020年11月、メンフィス・グリズリーズでの2way契約の2年間を終えた渡邊雄太がトロント・ラプターズのトレーニングキャンプに参加すると報じられた。

日本人ラプターズファンである筆者の頭に浮かんだのは、喜び、期待、そして不安だった。

なにせ熾烈な競争が待っているエグジビット10契約、グリズリーズでの2年間は日本のファンからの所属チームを責める声も少なくなかった。明日の朝起きたら『ウェイブ』の4文字とともに推しチームが叩かれていたらどうしよう、と。

杞憂だった。

「日本人だからってひいきはしないぞ」と不要なプライドから『逆バイアス』すらかかっていた筆者にとって、失礼ながら想定以上の活躍だった。失敗を恐れずブロックに跳び、果敢にリバウンドを獲りに行き、ルーズボールにがむしゃらに飛び込み…気がつけば僕のお気に入りはみんなのお気に入りになっていた。

なにより日本人ファンとしては、直近10年間で最も苦しいタンパでのシーズンに渡邊がいてくれたのは非常にありがたかった。優勝を狙えるローテーションの一員だったらこの上ないことは言うまでもないが、目を背けたくなるような劣勢の試合でも彼は観戦のモチベーションになってくれた。昨シーズンは『もしそのスリーを決められていたら…』と頭を抱える場面も何度かあったのは確かだ。しかし忘れてはならない、その1年前には開幕ロスターに残るためにさえいくつもの『もし』が必要なお試し選手だったのだ。

渡邊がトロント(とタンパ)で成し遂げたことはまさしく、快挙だ。

筆者とワタナビー効果

本題に入る前に自己紹介をさせていただきたい。筆者はTwitterにおいて日本語でラプターズに関する情報を発信するアカウント『ラプターズ情報局』を運営している。また、渡邊の加入以降はRaptors Republicにおいていくつかの記事の日本語訳を担当したほか、1年前には自ら記事も執筆した。(そしてその経緯を就職面接で話し、来年以降の給料を手に入れた。BET ON YOURSELF!!!)

筆者は1ファンに過ぎないが、『ワタナビー効果』を身をもって体感した一人だ。1枚のグラフをご覧いただきたい。

これは2020年1月の開設以降の筆者のTwitterアカウントのフォロワー数の推移である。これほどわかりやすくワタナビー効果を表現しているものが他にあるだろうか?

コアな日本人ラプターズファン向けの情報アカウントは、気づけば知らない間にフォロワーと街ですれ違っていても不思議ではないほどになっていた。

2年前、当時ラプターズに在籍していたロンデ―・ホリス=ジェファーソンが財布を無くしたというニュースは筆者の300人弱のフォロワーの大半に無視されていたけれど、その財布が見つかっていたと判明したころにはフォロワー数は10倍になっていた。(いいね数はほとんど変わらなかったけれど…)

そして直近数カ月のダウンにも注目していただきたい。これもまたワタナビー効果だ。昨シーズンが終わると察しの良い渡邊ファンは筆者のアカウントから離れ始め、ネッツ行きの第一報は試合終了の笛となった。

もちろん、ワタナビー効果は1つのTwitterアカウントのフォロワーの増減に留まらない。

まずはグッズの売り上げだろう。2020-21シーズン、日本での選手ジャージとチームグッズの売り上げで渡邊とラプターズはそれぞれトップだった。2021-22シーズンにはその勢いは弱まったものの(無論、同じジャージを2年連続で買う人はいない)、シーズン前半の売り上げで渡邊のジャージは3位、ラプターズのグッズは5位となった

もう一つはメディアの影響だ。渡邊を取り上げるニュース番組での特集やインタビューの数は東京オリンピック前後でピークを迎え、その後も続いた。今年5月には有名アナウンサーとの婚約も発表し話題となった。もしかすると、1年前の本契約を結んだときよりもスポーツ紙の記事は大きかったかもしれない。その直後には日本で最も有名なドキュメンタリー番組で特集された。日本のテレビでゲイリー・トレント Jr.を見る気分はいささか奇妙だった。派手なドレッドヘアとタトゥーに筆者の祖母は驚いたかもしれない。

さて、これらのワタナビー効果はもう終わりなのだろうか?答えはNOだ。少なくとも筆者はNOであってほしいと思うし、NOであるべきだ。

ワタナビー効果が終わらない理由

1年前の記事において、筆者はワシントン・ウィザーズを例に公式日本語Twitterアカウントの開設を提案した。これが叶わなかったのは残念であるが、その判断にも納得はできる。なにより、一度始めたコンテンツを辞めるのは難しい。筆者は自身のアカウントを一時的に休んだり何度か辞めたりしているが、NBAチームの公式アカウントではそうはいかない。チームでの渡邊の将来や長期的な運営コストを考慮した時、それは難しい決断だっただろう。

幸運にも日本人ラプターズファンのコミュニティには、筆者も含め情報発信に積極的なファンが多くいた。ラプターズを中心に取り上げるYouTubeチャンネルもあれば、英語のニュースを共有するファンも非常に多かった。認証バッジを背負った公式アカウントと比べると影響力は到底及ばなかっただろうが、ファンに情報を届けるという点では十分に機能していたはずだ。正直なところ、筆者を含む非公式コンテンツの制作者にとっては公式の日本語コンテンツの少なさがむしろプラスに働いた可能性は否定できない。

結果的に、渡邊ファンの多くはラプターズファンにならないまま、ブルックリンに向かってしまったかもしれない。この点については、ラプターズ側の努力不足以上に、仕方のない部分が大きいだろう。ある選手のファンをチームのファンへと変えることの難しさは、毎日のように大谷翔平目当てにロサンゼルス・エンゼルスの試合を見ている筆者が一番わかっている。エンゼルスの選手の名前を多く覚えたけれど、筆者は未だにライトなブルージェイズファンのままだ。(菊池雄星については…何も言わないでおこう。)

とはいえ状況が以前と同じに戻るか、というとそんなことはないだろう。

幸いにもラプターズのロスターは今夏ほとんど変わっておらず、主力は昨季と同じ面々である。日本人選手の試合がない日には、ラプターズの試合は暇つぶしに見る試合の有力候補に挙がるはずだ。ウィザーズ戦やネッツ戦では「あ、雄太の会見に乱入してきたブーシェだ」などと思い出す日本人ファンが多くいるだろう。「あ、あんまり雄太にパスをしなかったフリンだ」の可能性もあるけれど。

そして筆者の渡邊へのフェアウェルツイートにはこんなリプライも寄せられた。

「渡邊選手の加入のおかげでスコッティ・バーンズのファンになった。これからもバーンズ目当てにラプターズは応援するんだろうなぁ」

これが全てだ。渡邊がきっかけとなり、バーンズが大きな手で日本人ファンの心を掴んだ。新たなラプターズファンが1人、生まれたのだ。おそらくこれは一例に過ぎず、同じような事例は過去2年間でたくさんあるはずである。

ワタナビー効果は終わらない。ライトな日本人NBAファンにとって、ラプターズは『ビンス・カーターがいたチーム』から『カワイ・レナードのおかげで優勝したチーム』となり、『渡邊雄太がいたチーム』にまで身近になった。この2年間ほどの勢いはないかもしれないが、確実に知名度の底上げには成功しているはずだ。あとは我々がチームの魅力を根気強くアピールしていけば良い…奇妙なまでに長いウイングスパンなどを、だ。

長い長い謝辞

最後に、たくさんの人たちに感謝を伝えなくてはならない。

まずはラプターズの組織全体に大きな感謝を!渡邊にチャンスを与えてくれただけでなく、日本のマーケットにもたびたびアピールしてくれた。

中でもニック・ナースにはとびきりの感謝を伝えなくてはならない。試合後の会見ではいつも渡邊に関する質問のために時間を割いてくれていた。渡邊の出場時間が短い時でも、「そんなことよりスコッティは…」なんて言わずに日本の記者に真摯に対応してくれていた。

それからもう一度渡邊にチャンスをくれたチーム、ありがとうブルックリン。ラプターズファンとしてはよりによってブルックリンか…という思いはあるけれど、優勝を狙えるチームであることは間違いない。育成重視のチームよりも渡邊はフィットしやすいだろう…ラプターズとどちらが『Higher Ambitions』を持っているかはわからないけれど。

そしてもちろん渡邊雄太選手、本当にありがとうございました。2年前、前年にインパクトを残したオシェー・ブリセットの放出を惜しんでいた筆者より、「ユータならできる!」と楽観的なコメントをしていた日本人選手ファンの方が正しかった。エグジビット10契約から2way契約、そして本契約まであらゆる山を乗り越えてきた。きっとブルックリンでもやってくれるはずだ!筆者はもう代わりに放出される選手を惜しむファンではない、楽観的な日本人選手ファンだ。

そしてRaptors Republicの皆様には特別な、個人的な感謝を伝えなくてはならない。高校時代にパソコンを使う授業でこっそり見ていたサイトに、自分の文章が載るなんて思いも寄らなかった。こんなチャンスを与えてくれる寛大さは、まさにラプターズのコミュニティを象徴するものだ。また、渡邊に関する記事はどれも翻訳していて楽しかった。

最後に、これを読んでいるラプターズファンのみなさん、YUTAと我々日本のファンを温かく迎えてくれてありがとう。筆者はネッツ情報局になったりはしないから心配しないでほしい。これまでも、これからも、筆者を含む多くの日本人ファンはあなた方の一員だ。

WE THE NORTH, FROM THE EAST.

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